30. さっさと売り逃げた元区分所有者には、もはや特定承継人としての責任は追及できない?
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さっさと売り逃げた元区分所有者には、もはや特定承継人としての責任は追及できない?
東京地方裁判所平成28年7月15日判決(判例集未搭載)
【ざっくりどんな事案?】
管理費等の滞納者Aの住戸が競売にかかり、Bが落札した。
しかし、Bは、Aが滞納した管理費等を管理組合に対して支払うことなく、
早々に、住戸をCへ転売してしまった。
そのため、管理組合は、現在の区分所有者であるCのみならず、Bに対しても、
Cと連帯して、Aが滞納した管理費等を支払うことを求めて訴訟を提起した。
【裁判所の判断を簡単にいうと?】
Bは、いったん区分所有者となった以上、その後区分所有権を喪失しても、
区分所有法8条に基づき、Aが滞納した管理費等を支払う義務を免れない。
【この裁判例から学べること】
まず、重要な前提知識を改めて確認しましょう。
管理費等の滞納者は、通常、お金がありません。当然ですね。
そして、お金のない人からは、どうがんばってもお金(債権)を回収できません。
しかし、これでは管理組合運営が成り立ちません。
ひいては、マンション全体が管理不全となり、スラム化してしまい、
地域社会全体に悪影響を及ぼしてしまいます。
そのため、区分所有法は、管理組合に対して大きな武器を与えています。
それが区分所有法8条です。
この8条は、要するに、滞納者の「特定承継人」は、
滞納者が管理組合に対して負っていた管理費等支払債務を、滞納者本人とともに
連帯して管理組合に対して支払う義務を負う、と定めています。
ここでいう「特定承継人」とは、任意売買の購入者や、競売での競落人などを意味します。
それでは、本件のBのように、いったんは間違いなく「特定承継人」になったものの、
管理組合が訴訟を起こした時点では既に区分所有者ではなくなった者も、
なお「特定承継人」に該当するとして、管理組合に対する支払義務を負うのでしょうか?
一般に、このBのような立場の者のことを、中間特定承継人と呼んでいます。
残念なことに、昭和から平成初期頃にかけての裁判例の中には、中間特定承継人の義務を
否定するものが散見されました。
その理由は、要するに、
「よそ様(=A)の債務を引き継ぐという特殊な義務が設定されたのは、
マンションという財産が引き当てになっているからだ。
だとすれば、マンション自体を既に売ってしまった中間特定承継人は、
この特殊な義務を負う前提を欠くに至ったと考えるべき」
というものでした。
しかし、区分所有法8条には、「特定承継人」の範囲について、中間特定承継人を
除外することを正当化する文言は一切ありません。
また、このような解釈を認めてしまうと、管理組合から請求を受けた中間特定承継人は、
すぐに区分所有権を転売すれば義務を免れることになり、それがずっとに続いてしまうこともあり得ます。
このような事態は、マンションの管理不全を防ぐために設けられた区分所有法8条の
趣旨を没却するもので不当です。
そのため、近年の裁判例においては、まず例外なく、中間特定承継人の支払義務が肯定されています。
よって、管理組合の皆様は、自信をもって、本件のBにも、Aの滞納した分を請求してください。