32. 長期滞納者が少額を支払ってきた場合、滞納分全てについて消滅時効はストップする?
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長期滞納者が少額を支払ってきた場合、滞納分全てについて消滅時効はストップする?
東京地方裁判所平成19年9月14日判決(判例集未搭載)
【ざっくりどんな事案?】
私たちのマンションでは、分譲以来、管理組合というものを設立してきませんでしたが、
このたび、自分たちでしっかりと管理すべきという機運が生まれ、管理組合が設立されました。
その過程で、会計等を精査していたところ、ある区分所有者が、管理費等をちょこちょこと
支払ってはいたものの、それでも合計10年分近く滞納していることが判明したのです。
そのため、管理組合(原告)として、滞納者(被告)に対して、滞納している
管理費等全額の支払を請求したのですが、滞納者からは、
「5年以上前に支払期日が到来したものについては、管理費等支払請求権の消滅時効が完成しているから、
払う必要はない」
と反論されてしまいました。
【裁判所の判断を簡単にいうと?】
被告は、管理費等を支払った月もある。
この一部弁済によって、自ら債務を承認したといえる。
よって、5年以上前の管理費等についても、信義則上、消滅時効の完成を
主張することは許されない。
【この裁判例から学べること】
マンションの管理費等は、決められた支払期日から5年間が経過すると、
順次、債権の消滅時効が完成してしまいます。
そのため、滞納者側が、「時効だ!」と主張(これを「援用」といいます。)してしまうと、
管理組合による支払請求が認められないのが原則です。
しかしながら、滞納者の中には、滞納期間の一部に関して弁済をしている場合も
少なくありません。
そのため、この一部弁済が、債権の消滅時効をリセットさせる事由である
「承認」(民法152条1項)に該当するのか否かが争点となることがあります。
この裁判例は、「承認」というよりは、「信義則による時効援用権の喪失」
という理屈を採用したようです。
しかし、マンションの管理費等の事案ではありませんが、
最高裁判所の判例として以下のようなものがあります。
(大意)
債務者が、同じ債権者に対し、複数の債務を負っている場合において、
債務者が、その充当先を指定することなく、全債務を完済するのに足りない一部弁済を
したときは、この一部弁済は、特段の事情のない限り、全ての債務との関係で、
「承認」に該当し、消滅時効がリセットされる。
よって、管理組合としては、仮に何らかの事情で5年以上前の管理費等についての
時効リセット措置(訴訟提起など)を行うことができていない事案についても、
その間に一部弁済が行われていたときは、この一部弁済による債権全体の「承認」が
なされたものとして、全額を滞納者に対して請求していくべきでしょう。