6. 総会で決定する前に、役員の立候補者を理事会で不承認にすることはできる?

総会で決定する前に、役員の立候補者を理事会で不承認にすることはできる?
【東京高裁平成31年4月17日(判例時報2468号10頁)】

【ざっくりどんな事案?】

私たちの管理組合では、重要な役割を担う役員に、不適任な方が就任してしまうことを
防止するため、規約を変更し、役員へ立候補したい方は、総会の前に、理事会の
承認を要する
という内容を盛り込みました。

このたび、役員を誹謗中傷する内容を含むビラを全戸に配布するなどしていた人(原告)が
役員に立候補されたため、規約に基づき理事会に諮ったところ、満場一致で不承認となりました。

ところが、この方が、この理事会決議によってご自身の人格的利益を侵害されたとして、
理事全員を被告として、慰謝料100万円の支払を求めて訴えを起こしたのです。

【裁判所の判断を簡単にいうと?】

(1審の東京地裁の判断)

・立候補の事前承認制を定める規約の定めは、理事会に対して広範な裁量を与えるものと解釈した。

・その上で、原告の言動などに照らせば、不承認とした理事会の判断は裁量を逸脱するものではないと
判断し、原告の請求を棄却した。

(東京高裁の判断)

・前提

管理組合の組合員には、役員としての適格性の是非を、総会において区分所有者に
よって判断されて、信任・選任されるという利益(人格的利益)がある。
よって、これを故意又は過失に基づき、違法に侵害した場合には、
慰謝料を支払う義務が生じる。

・規約の定めの限定解釈

規約上、役員の選任は総会決議事項であるにもかかわらず、その立候補について
事前承認制とすることは、総会決議によって役員としての適格性が判断される機会が
与えられないことになるため不合理である。

よって、規約の定めに理事会による不承認は、
成年後見人等などの、客観的にみて明らかに役員としての適格性に欠ける者について
認められるにすぎない。

【簡単に言えば】

原告は、客観的にみて明らかに役員としての適格性に欠ける者には
該当しないから、理事会による不承認は違法である。

・ただし・・・

法律の専門家ではない理事たちにとって、規約の正確な解釈は困難だった。
また、原告の言動にも問題はあった。
よって、理事会による不承認は違法ではあったが、理事たちには
過失が認められない。

したがって、不法行為(民法709条)の要件全てを満たすことには
ならないため、結論としては慰謝料請求は認められない。

【この裁判例から学べること】

2019(平成31)年の裁判例の中では最も重要なマンション判例がこれでしょう。
結論としては原告の請求棄却となりましたが、実質的には原告勝訴といってよい内容です。

マンション管理新聞の記事でも、原告の方が実質勝訴であるとコメントしていました。
私の感覚では、これまでの裁判所の判断の傾向は、1審の東京地裁のように、
要するに、「管理組合の自治を尊重し、裁判所はうるさいことを言わない」というのが
主流であったと思います。

この東京高裁の判決後に、潮目が大きく変わるのか、
現在も注視しているところです。

とはいえ、実務上は、「どうしても、この人を役員にしたくない」という
ニーズが存在します。これは本当に切実なニーズであることが多いです。

その場合、今までは、本件の管理組合のような、包括的な事前承認制を採用することで
対応していた管理組合もあると思います。しかし、今後はそれではダメだということになるでしょう。

私も、現在、いくつかの対応メニューを考案し、管理組合ごとに最もフィットするメニューを
提案していますが、その際には、【組合員の利益に対する制限として行き過ぎない、不当でない】
という観点と、【仮に組合員から提訴されても敗訴するリスクをゼロに近づける】という観点の、
調和を図るようにしています。