12. 滞納者のライフラインを止めてもいいですか?

滞納者のライフラインを止めてもいいですか? 
東京地方裁判所平成21年5月28日判決(判例集未搭載)

【ざっくりどんな事案?】

私たちのマンションは、構造上の制約から、専有部分で使用された電気料金についても、
共用部分の電気料金と併せていったん管理組合が電気事業者に対して支払い、その後に管理組合が
各区分所有者に対して専有部分の電気料金相当額を徴収するという、いわゆる一括徴収を余儀なくされています。

このたび、管理費等の長期滞納者が発生し、何度督促しても支払ってこないため、まじめに管理費等を支払っている
組合員から怒りの声があがりました。

そのため、滞納が解消するまでの間、当該専有部分に対する電気の供給を物理的に停止することにしました。
結局、供給停止期間は90日間となりました。

その後、この区分所有者から、管理組合や理事長らを被告として、電気供給の停止は違法な自力救済であったとして、
慰謝料や弁護士費用の支払を求めて訴えが起こされました。

なお、管理規約には、滞納者に対する電気供給を停止できる旨の規定は確かにありませんでした。

【裁判所の判断を簡単にいうと?】

・区分所有法58条が、法定の厳格な手続を経なければ専有部分の使用を禁止できないとしている法の趣旨からしても、
電力停止は違法な自力救済に該当する。

・よって、管理組合・理事長・管理会社に、連帯して、区分所有者や居住者に生じた損害(精神的苦痛)に対して
 賠償するよう命じた。

賠償額については、摂氏30度を超える暑さの日にも冷房が使用できなかった居住者(原告)の
苦痛は大きいとしながらも一定の収入がありながら多額の管理費等を滞納し続けた点で過失相殺をすべきであるとして、
 慰謝料10万円などにとどめた。


【この裁判例から学べること】

管理組合の判断でライフラインの停止が物理的に可能であるマンションにおいては、
管理費等の滞納に対する威嚇や制裁として、停止が安易に検討されがちです。

また、同趣旨の自力救済として、部屋番号や氏名の公表などもありがちです。
しかしながら、これらはどう言いつくろっても自力救済ですから、違法であって許されないと考えるべきです。
これは仮に、規約や細則にこれらの制裁を可能とする規定があったとしても同様です。

この裁判例は平成21年(2009)年のものですが、その後も、滞納者に対する自力救済を違法とする裁判例が複数出ていることからすると、今後(2022年以降)は慰謝料額がもっと高額になる可能性もあると予想しています。