23. 管理費等の滞納者の自宅を競売にかけるためには管理組合を法人化しないといけないの?

(相談事例・裁判まで行かずの相談と回答です)
管理費等の滞納者の自宅を競売にかけるためには管理組合を法人化しないといけないの?


【相談内容】

管理費等の長期滞納者がおり、既に簡易裁判所にて勝訴判決を獲得して確定しています。
その後も全く連絡もとれない状態であることから、やむを得ず、弁護士に委任して、滞納者の自宅を競売にかけようと検討しています。

すると、理事の一人から、「最近は、競売を申し立てるためには、先に管理組合を法人化しないといけないらしい」
との指摘がありました。

そんなおおごとにしないといけないのでしょうか?


【回答】

今回は、裁判例から離れまして、私が実際に受けた相談事例(の内容を改変したもの)をご紹介します。

結論から申し上げますと、法人化しなければならない、ということはありません。

法人化せずとも競売申立ては可能です。現に、今も多くの管理組合が法人化せずに競売などの申立てを行っています。

もっとも、昨今の実務からしますと、法人化の是非そのものは、競売申立ての前に
検討した方がよいと考えています。


以下、やや細かいですが、その理由を説明します。

裁判所から、無事に競売開始決定が発令されると、裁判所から登記所(法務局)に対し、競売開始の通知が行われます。
これを受けた法務局は、競売の対象となった不動産に、「差押えの登記」を行います。

この登記の存在により、この不動産の購入希望者に対し、
「この不動産は既に差し押さえられているので、あなたが購入したとしても、競落人には負けてしまい、所有権を取得することは
できませんよ」
という注意が与えられるという仕組みです。

この点、裁判所がよって立つ法律である民事訴訟法では、法人化していない管理組合であっても、
いわゆる「権利能力なき社団」の要件を満たす場合には、堂々と法的手続の当事者となることが認められています。
他方、法務局がよって立つ法律である不動産登記法では、民事訴訟法のような正面から権利能力なき社団の登記能力を
認める条項がありません。

そのため、裁判所からは、
「●●マンション管理組合がこの不動産を差し押さえたので、●●マンション管理組合を債権者とする差押えの登記をお願い」
と言われた法務局として、対応に苦慮するケースが生じているのです。

法務局も、登記官ごとに判断が別れており、私は以下のような対応を経験しています(ほかにもバリエーションがありますが省略します。)。

  
  ア ●●マンション管理組合名義で差押えの登記が可能。住所も当然管理組合の住所。
  イ 管理組合名義での差押えは不可。理事長の個人名(「山田花子」)での登記とする。
    もっとも、住所は管理組合の住所でよい。
  ウ 理事長の個人名での登記とし、住所も理事長の住民票上の住所しか不可。

一番の問題は上記ウです。理事長の立場からすれば、
「なんで私自身が自宅を差し押さえた人間かのように登記されるの?債務者がこれをみて、勘違いして逆恨みしてきたらどうするの?ただ輪番とくじ引きで理事長になっただけなのに」
という心配をされる方もおられるでしょう。
実際には、競売まで至る多くの案件では、債務者が登記を確認すること自体が極めてまれでしょうけれども、だとしても、です。

これを100%回避したいということであれば、遅くとも競売申立ての前に、管理組合を法人化するほかありません。
法人化すれば、当然ですが、「●●マンション管理組合法人」名義で、かつ、法人の住所が登記されるからです。
とはいえ、管理組合を法人化するメリットは通常はほとんど無いため、悩ましい判断となります。

とはいえ、法務局の対応も地域ごと、あるいは(おそらくは登記官の交代に伴って)時期によっても異なるものとなっています。
私も、確定的な回答はできませんが、常に情報を収集しているところです。

最終的には、法の不備として立法(国会)で解決してもらわないといけない問題です。