24. 管理組合は、競売において、抵当権者たちには絶対に勝てない?

管理組合は、競売において、抵当権者たちには絶対に勝てない?
東京高等裁判所平成16年5月20日決定(判例タイムズ1210号170頁)


【ざっくりどんな事案?】

管理費等をもう10年以上も滞納している組合員がいて、何事もないかのように平然と暮らしています。
生活が苦しくても一生懸命管理費等を払っている他の組合員との間で、到底公平性が保てません
管理組合として、これまで2度も、管理費等の支払を命ずる判決を取得していますが、依頼した弁護士によれば、
住宅ローン(抵当権)の残債務がまだ高額であると予想されるため、判決に基づいてマンションを競売にかけても、
「無剰余取消」という制度のせいで、競売はできないとのことでした。

そのため、管理組合として、区分所有法59条に基づく競売請求訴訟を提起したところ、
裁判所が請求を認めてくれて、判決は確定しました。
この判決に基づく競売に関しては、「無剰余取消」制度の適用はなく、マンションは競落されて区分所有者の
交代が実現できると聞いています。



【裁判所の判断を簡単にいうと?】

通常の競売とは異なり、区分所有法59条に基づく競売の場合は、無剰余取消制度(民事執行法63条1項)の適用はない。



【この裁判例から学べること】

もう20年近く前の裁判例となりましたが、管理費等滞納事案の実務においては極めて重要な高裁判例です。

今後、金融機関(抵当権者)や自治体(差押債権者)などからこの裁判例の結論が争われる可能性は低いと考えられることから、
高裁判例とはいえ、確立した最高裁判例と同じくらいに実務上重要な指導的判例といえます。

管理組合が管理費等の回収を目指すに際して、その最大の壁となるのが何といっても無剰余取消制度です。
無剰余取消について解説したWebサイト等はたくさんありますので、詳細はそちらに譲るとして、
極めてざっくり説明しますと以下のような制度です。
「金銭債権には、順位(強弱)があるのだ」ということがおわかりいただけると思います。

(例)
ア マンションの競売における評価額(最低落札価格)が5,000,000円と定められた。
イ 管理組合の債権(≒滞納額)は1,000,000円。
ウ 管理組合が裁判所に納めた予納金(手続費用)は800,000円。
エ マンションに登記された抵当権(優先債権)の残債務額は10,000,000円。

→この場合、エの10,000,000円 > アの5,000,000円+ウの800,000円となってしまうため、
 管理組合がせっかく申し立てた競売は、「抵当権者(優先債権者)の利益を害する」として、
 抵当権者の同意なき限り、取り消されてしまうことになっています。

管理組合が、事前に抵当権者(金融機関)に照会しても、その残債務額を教えてくれることはありません。
よって、管理組合としては、無剰余取消のリスクを自ら評価して、競売に踏み切るか、
それとも止めておくかの判断を迫られることになります。

これに対し、長期・高額な管理費等の滞納が、マンション全体の利益を著しく損なう場合には、
迷惑居住者等をマンションという共同体から排除することを定めた区分所有法59条に基づき、
別のルートからマンションを競売にかけることができるときがあります。

この競売は、「共同体からの排除を、競売という形式を活用して実現するため」のものであって、
通常の「債権回収(カネを払え)のための競売」とは全く異なる異質なものです。
この裁判例は、この異質性を正確に把握し、区分所有法59条に基づく競売には無剰余取消制度の適用がないと判断してくれたのでした。

この裁判例のおかげで、管理組合は、抵当権者などの優先債権者がいようとも、競売による区分所有者の交代を図ることが可能となりました。通常は、その競落人から滞納管理費等の回収を図ることになります。