3. 理事長は、組合員からの質問に対して、常に報告・回答しないといけないの?

理事長は、組合員からの質問に対して、常に報告・回答しないといけないの?
【東京地方裁判所平成4年5月22日判決(判例時報1448号137頁)】

【ざっくりどんな事案?】

私たちのマンションの近隣で再開発が進められました。
この再開発の過程で、近隣の私たちには有形無形の迷惑が生じたことから、管理組合が再開発組合と交渉しました。

その結果、再開発組合から迷惑料を支払ってもらうことができたため、管理組合としては、
この迷惑料を組合員に配分することにしたのです。

すると、複数の組合員(原告)から、管理組合の 当時の 理事長(被告)に対し、再開発組合との
交渉経緯などについて、「私たちに対し、交渉経緯などこと細かく報告しろ!」
請求する訴えを起こされてしまいました。

【裁判所の判断を簡単にいうと?】

・原告らは、理事長が個々の組合員に対して民法の委任の規定中にある「報告義務」(645条)を負っていることを根拠に請求している。

・しかし、本件の理事長と、個々の組合員との間には、個別の委任契約(委任関係)が認められない。

・よって、委任の規定を根拠とする報告義務=報告請求は認められない。

【さらに簡単にいうと?】

組合員の主張する「報告しろ!」は認められなかった。

【この裁判例から学べること】

近年、権利意識の高まりや、いわゆる「クレーマー」の増加にともない、重要度がうなぎのぼりの裁判例。
なので、記念すべき当ブログ1発目の記事にしました。

「理事長は、組合員の一人一人に対して、いちいち報告義務なんて負わないよ」という結論自体は、常識的に考えても妥当でしょう。
例えば600戸の大規模マンションにおいて、理事長が組合員の一人一人から毎日報告を求められて、
これに応じなければ法的な義務違反だとなったら、あまりにおかしなことだからです。

これが通るなら誰も理事長なんてやりませんよね。

他方で、区分所有法上の「管理者」という地位にあることになっている理事長は、年に1回は、総会で
管理組合の業務について報告する法的義務を負っています(区分所有法43条)。

このことは間違いのないことです。もちろん、個々の組合員からの質問に対し、質問者が納得するまで報告・説明をし続けなければならないというわけではありません。
合理的な範囲内で報告・説明すれば法的義務の履行としては十分です。

以上を踏まえ、実務(現場)においては、①質問の内容、②質問の頻度、③回答等に要する時間・労力・他の業務への影響、
④コミュニティの濃淡など、それぞれのマンションにおける実情により、【個別の質問等に回答するか】、
【回答するとすればその方法をどうするか】などを検討していただくことになります。