21. 役員を誹謗中傷する内容のビラ配りを止めるには、被害者が個々に訴えないとダメ?
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役員を誹謗中傷する内容のビラ配りを止めるには、被害者が個々に訴えないとダメ?
最高裁判所平成24年1月17日(判例タイムズ1366号99頁)
【ざっくりどんな事案?】
組合員の一人が、「役員が管理組合のお金を恣意的に運用している」など、根拠なく役員を誹謗中傷するビラを全戸配布したり、
マンション近くの電柱に貼り付けたり、管理組合が発注した工事の業者に意味不明の文書を送りつけたり、
工事を辞退しろと電話をかけたりするなどの迷惑行為を続けています。
このままでは、役員のなり手や工事業者がいなくなってしまうなど、管理組合運営が成り立たなくなってしまう可能性があります。
そのため、管理組合として、これらの行為は区分所有法6条1項が定める「共同の利益に反する行為(共同利益背反行為)」
に該当すると考え、これらを止めるように求める訴訟を起こしました。
ところが、地方裁判所と高等裁判所では、
「迷惑を被っているのは、役員や業者などであって、騒音や振動などの迷惑行為とは違って、建物の管理上の問題が生じているわけではないから、共同利益背反行為に該当するとはいえない」、「だから、『止めろ』と訴えることができるのは、個々の役員や業者であって、管理組合ではない」という理由でいずれも敗訴してしまいました。
納得がいかないため、最高裁判所に上告し、判断を仰ぐことにしたのです。
【裁判所の判断を簡単にいうと?】
いつもとは異なり、判決文の一部を以下にそのまま引用します。
「マンションの区分所有者が、業務執行に当たっている管理組合の役員らをひぼう中傷する内容の文書を配布し、マンションの防音工事等を
受注した業者の業務を妨害するなどする行為は、それが単なる特定の個人に対する誹謗中傷等の域を超えるもので、それにより管理組合の業務の遂行や運営に支障が生じるなどしてマンションの正常な管理又は使用が阻害される場合には、法6条1項所定の「区分所有者の共同の利益に反する行為」に当たるとみる余地があるというべきである。」
【この裁判例から学べること】
このブログでは初めての最高裁判例の登場です。
マンション管理の分野では、ただでさえ貴重(希少)な最高裁判例ですが、この判例も実務上極めて重要な内容となっています。
この判例は、地裁(1審)と高裁(2審)の判断を誤りであると判断し、その上で、もっと審理を尽くさせるために、
事件を高裁へ差し戻したというものです。
地裁と高裁で判断が一致したように、
「建物の管理とは直接関係のない迷惑行為は、共同利益背反行為には該当しない」
という見解は、研究者の先生方(学会)においても有力でした。
大きな視点からのお話をしますと、区分所有法という法律は、まず民法の物権法分野(特に所有権・共有論)の
特別法という位置づけがあります。
これを重視する立場は、「共同利益背反行為とは、建物という財産に関する迷惑行為のみを指す」
という解釈と親和的です。
他方、区分所有法という法律は、会社法のように、多数人の利害の調整を図るという団体法としての側面もあります。
この側面は、法改正のたびに強化されているという評価が一般的です。
このような団体法としての側面を重視する立場からすれば、「共同利益背反行為とは、建物という財産に
関する迷惑行為に限られず、広く管理組合運営に悪影響を与える行為も含まれる」という解釈に親和的です。
実際のマンション管理の現場の意見としては、
「建物に直接関係しない迷惑行為は、その直接の被害者である役員などの個々人が、個別に差止請求訴訟を提起して頑張るしかない」
という地裁や高裁の判断は、到底受け入れがたいものでした。
また、少なくとも昭和57年の区分所有法の大改正の際の沿革等からすれば、共同利益背反行為の内容を、
建物という物理的財産に関する迷惑行為に限定する必然性はないと考えられます。
よって、この最高裁の判断内容は、実務上は全面的に賛成できるものといえるでしょう。
なお、差戻審である東京高等裁判所においては、管理組合側の請求を全て認容する判断が改めて示されています(判例集未搭載)。