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マンションに関する基本的法概念は独特であり、一般には耳慣れないものが多いことから、
最初に定義規定がまとめて置かれています。
制定当時は合計7号でしたが、1983年の区分所有法の大改正を踏まえて「占有者」(3号)と「敷地」(6号)が追加されました。
その後、直近の2021年改正時に、「電磁的方法」(10号)と「Web会議システム等」(11号)が追加されています。
これ以外にも、14条1項の中で定義されている「バルコニー等」も実務上頻出であるため、この2条に置いてほしいところです。
2条に関しては、以下の2点を指摘します。
まず1点目です。
7号の「共用部分等」に含まれるのは、共用部分と「附属施設」です。
共用部分と「敷地」ではありません。
この点は区分所有法26条1項とは異なります。区分所有法26条1項では、
「共用部分+敷地+附属施設」の3つを併せて「共用部分等」と定義しています。
この3つのことを、標準管理規約では「敷地及び共用部分等」と呼んでいます(9条など)。
せっかくですから、ここで共用部分に関連する概念を整理しましょう。
区分所有法が規定しているのは以下の4つです。
1 「建物の部分」(法2条4項。専有部分たるお部屋や、壁や柱などの建物自体の一部分を構成している共用部分のことです。)
2 「建物の附属物」(法2条4項。配管や配線などのことです。)
3 「附属の建物」(法2条4項。管理事務所や集会棟などの、独立して不動産登記が可能な建物のことです。)
4 「附属施設」(法3条。自転車置場などです。)
このうち、「共用部分」であるのは、
①専有部分以外の「建物の部分」と、
②専有部分に属しない「建物の付属物」と、
③規約によって共用部分とされた「附属の建物」の3つです(法2条4項)。
共用部分であるということの主たる意味(メリット)は、
何と言っても、区分所有法が適用されることによってその管理を多数決で行うことができるという点です(法17条と18条)。
区分所有法が適用されなければ、民法の共有に関する規定が適用されることになってしまい、多数決で決められることが
激減してしまいます(全員合意が必要となってしまいます。)。
他方、「附属施設」は「共用部分」には含まれません。
そのため、本来であれば民法が適用されてしまい、管理が極めて大変になるところなのですが、
分譲契約(売買契約)の効果として、当該附属施設が区分所有者の共有になっている場合には、
区分所有法17条や18条を準用することが許されています(法21条)。
これは「敷地」についても同様です。
これにより、「附属施設」(や敷地)についても、区分所有法が適用=多数決での管理が可能となっています。
日頃の実務において、以上のようなことに思いを来している人などまずいないと思いますが、
本当は、以上のような過程を経て、「マンションの建物や、駐輪場(「附属施設」)や、敷地は、みんなで
(総会の多数決で)管理するものだ」という結論(実感)に至るものなのでした。
次に2点目です。
実務的にも、また区分所有法学的にも、2条で最も重要であるのは「専用使用権」(9号)だと思います。
専用使用権という概念は区分所有法には存在さえしていませんが、
標準管理規約においては、その制定時から定義規定が存在しています。
私は、この専用使用権という概念は、本当に実務の知恵が生み出した、
便利極まりない概念であると思います。
専有部分(自由にどうぞ)と共用部分(勝手はだめよ)の間に、
バルコニーなどの、「あまり勝手にされると困るけど、かといって日常的に使えるのは特定人に限られているのだから、
日常管理は当該特定人にやってもらわないと具合が悪い。その代わり、ある程度は自由に使っていいですよ。」
という場所が確かに存在しているからです。
しかしながら、9号の定義における、「排他的に使用できる権利」という文言には賛成できません。
いかにも語感が強すぎて誤解を招きます。「排他的に」を削除してほしいと思います。
専用使用権という権利には、権利としての強弱・濃淡が確実に存在しています。
例えば、玄関扉の内側(7条2項2号)は区分所有者がなかり自由に使用できていいはずですから、
専用使用権は強いと評価できます。
他方、バルコニー(14条1項)は災害時の避難・防水・外観維持など
多くの人に影響しますから、区分所有者による使用には自ずから限界があるはずで、
専用使用権は弱い(少なくとも強くはない)と評価できます。
この専用使用権の強弱・濃淡の問題については、21条(土地及び共用部分等の管理)の箇所で
詳しく検討したいと思います。標準管理規約も、専用使用権には強弱・濃淡があるということを
否定しているとは到底考えられませんが、しかし、このあたりの解釈が事実上現場に丸投げされていることから、
多くのトラブルが生じています。