3条(規約及び総会の決議の遵守義務)

まず先に、どうでもいいような細かいお話からです。
本条の見出しと文言には以下のように変遷があります。
文献資料を確認しても、この変遷に関する特段の記載は見当たりません。
解説するほどの価値がないためでしょう。単なる雑学として
知っていただければと思います。

【見出し】
・1982年の制定~1997年改正分まで:「規約の遵守義務」
・2004年改正分以降:「規約及び総会の決議の遵守義務」

【文言】
・1982年の制定~1997年改正分まで:「この規約及び使用細則を誠実に遵守しなければならない」
・2004年改正分以降:「この規約及び総会の決議を誠実に遵守しなければならない」

次に、この規約の実際上の意義について説明します。
区分所有者が、規約や総会の決議を遵守しなければならないのは
法律上も当然です(区分所有法46条1項)。
よって、第1項については訓示的な意味を有するだけになります。

他方、区分所有者に対して、
「同居する者に対してこの規約・・を遵守させなければならない」
と定める第2項はどうでしょうか?

ここでいう「同居する者」とは、いわゆる占有補助者を意味しているとされています。
要するに、同居の家族などです。
つまり、賃借人などの、独立した占有権原を有する「占有者」
(標準管理規約2条3号)は含まれません。
「占有者」との関係では、区分所有法46条2項や、これを確認した
標準管理規約5条2項により、規約等の遵守義務が別途定められています。

ここまでは、「へー。そうなのか。占有者と占有補助者とで、書き分けてるのね」
で終わるお話です。
ここから一気に細かい話をします(ほとんど実益はありません。)。
区分所有法6条1項は、区分所有者に対して、共同利益背反行為を
してはならないと定めており、この規定は、6条3項によって、
「区分所有者以外の専有部分の占有者(以下「占有者」という。)に準用する。」
定められています。ここで「占有者」の区分所有法上の定義がなされているわけです。

ところが、この6条3項の「占有者」とは、賃借人のみならず、同居人などの占有補助者も含むと
解されています(稲本・鎌野コンメンタール第3版56頁)。
そうすると、標準管理規約においても、「占有者」(2条3号)の中に、
占有補助者を含めてしまっても特段問題はなかったと考えられます。
そうであるにもかかわらず、占有者に関する規定(標準管理規約19条1項)とは
別に、占有補助者に関してこの3条2項を別途設けた理由は不明ですが、
標準管理規約は法律ではありませんから、より管理の現場に即するように
きめ細かい規定を置いたのだろうと想像しています。

次に、裁判例の紹介についてです。
3条2項の裁判例として、賃借人の義務違反によって管理組合に生じた損害について、
賃貸人が賠償義務を負うとされた事例(東京地判平成11年1月13日判時1676号75頁)が
紹介されることが多いと思います。
しかし、上記のとおり、3条2項は、厳密には、賃借人(「占有者」)ではなく、
「同居する者」(占有補助者)に関する規定です。
よって、この裁判例についても、賃借人に関して定めた19条(専有部分の貸与)の
箇所で解説することにします。

最後に、重要なのに議論が尽くされていない論点を簡単に紹介します
(いずれは判例ブログで詳説したいと思っています。)。
それは、【区分所有者は、売却等により区分所有権を喪失した後も、
規約や決議に基づく義務を負うのか?】という点です。
規約に違反して門扉を設置した区分所有者に対し、その区分所有権喪失後に、
なお規約違反を理由とする撤去請求を認めた裁判例があります
(東京高裁昭和55年3月26日判時963号44頁)。

これと表裏(でもないでしょうか。)の論点として、
【区分所有者は、自身ではなく、元区分所有者が行った共同利益背反行為
(例:バルコニーの改造)についても、管理組合からの区分所有法57条等の
請求に対して撤去義務等を負うのか?】もあります。実務上はこちらの方が
問題となることが多いです。この論点については、
第66条(義務違反者に対する措置)の箇所で解説したいと思いますのでお待ちください。
以上