16. 犬や猫は「迷惑及び危害を及ぼす恐れのある動物」に当たるから飼育は許されない?

犬や猫は「迷惑及び危害を及ぼす恐れのある動物」に当たるから飼育は許されない?
東京地方裁判所平成19年1月30日判決(判例集未搭載)


【ざっくりどんな事案?】

私たちのマンションでは、分譲当初から、管理規約で
「居住者に迷惑又は危害を及ぼす恐れのある動物を飼育すること
(ただし、盲導犬・聴導犬・介護犬及び居室のみで飼育できる小鳥・観賞魚は除く。)」
禁止する規定があります。

これまで、過去4回にわたり、犬や猫の飼育を認めるための議案が総会に提出されましたが、いずれも否決されています。

そうであるにもかかわらず、複数の住戸で犬や猫の飼育が続いているため、やむを得ず、
管理組合としてこれらの住戸に対して飼育禁止を求める訴訟を提起することになりました。

なお、この訴訟提起に先立ち、2年間の猶予期間を設けて、犬や猫を飼育されている方にはこの期間内に転居等の対応を
お願いしました。よって、被告とした住戸は、この期間内にも対応をしていただけなかった方々のみになります。


管理組合の弁護士によれば、被告の方々は、以下のような反論を行っているとのことです。

① 少なくとも自分たちが飼育している犬や猫は「迷惑又は危害を及ぼす恐れのある動物」には該当しない。

② ペットを飼育する権利は、現代社会においては幸福追求権の一内容として憲法上も保障されていると考えられるから、
  抽象的な「迷惑又危害を及ぼす恐れ」のみをもって犬や猫の飼育を禁ずる規約の規定は無効である。

③ 仮に規約の規定が有効であるとしても、個別的事情に配慮することなく本訴訟が提起されたことから、管理組合による飼育禁止請求は
  権利の濫用であって許されない。

【裁判所の判断を簡単にいうと?】

1 規約の規定は管理組合内部の自治規範であるから、その解釈に当たっては、
  これまで管理組合内部でどのようや解釈が採用されてきたかを尊重すべき。

2 管理組合において、多数の区分所有者が犬や猫の飼育を一律に禁止することを希望してきた以上、
  犬や猫が「迷惑又は危害を及ぼす恐れのある動物」に該当するものとしてその飼育を禁じることは許される。

3 以下の事情に照らせば、飼育禁止請求は権利の濫用とはいえない。

 ア 多数の区分所有者が犬や猫の飼育の一律禁止を指示していること
 イ 飼育禁止請求までに2年間の猶予期間が設けられていたこと
 ウ 猶予期間中に多くの飼い主が飼育を止めたこと 

 

【この裁判例から学べること】

ペットの問題は、マンショントラブルの古典的な類型です。本件のような、分譲当初から飼育禁止規定があった管理組合でも
訴訟まで至るわけですから、途中から飼育禁止規定を導入しようとする場合や、逆に途中から飼育禁止を止めて許容しようとする場合には、
激しい内部対立を招く
ことがあります。

この裁判例の結論は、ペット愛好家の方には不服かもしれません。しかし、マンションは共同住宅であって、様々な価値観をもった多数の
人々が一つの建物で居住する空間なわけですから、多数決をもって、ある程度一律にものごとの是非を決定することは避けられません。

よって、今回のケースでは、飼育禁止請求までに2年間の猶予期間を設けていたという激変緩和措置の存在からしても、
妥当な結論であって、裁判官が代わっても同じ結論に至ったであろうと思われます。