8. 今から規約を変更して、違約金としての弁護士費用を請求できるようにしても、既に管理費等を滞納している相手に対しては弁護士費用を請求できない?
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今から規約を変更して、違約金としての弁護士費用を請求できるようにしても、
既に管理費等を滞納している相手に対しては弁護士費用を請求できない?
東京地方裁判所平成19年2月23日判決(判例集未搭載)
【ざっくりどんな事案?】
私たちの管理組合(原告)に、管理費等の長期滞納者(被告)がいます。
これ以上看過できないため、訴訟を提起することになりました。
委任予定の弁護士から、管理規約が古いため、先に「違約金としての弁護士費用」を
滞納者に対して請求できる旨の規約変更を行った方がよいとアドバイスをもらいましたので、
そのとおりに規約を変更し、その後に弁護士との委任契約を行い、訴訟を提起しました。
ところが、滞納者が委任した弁護士から、「この規約変更は被告を狙い撃ちにしたものであるから、
『一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきとき』(区分所有法31条1項後段)に該当する」や
「規約の不利益な遡及適用だ」などとして、被告の承諾がない以上は変更後の規約は無効であると反論されています。
【裁判所の判断を簡単に言うと?】
規約変更時に、被告が管理費等を滞納していたとしても、この規約変更は、およそ全組合員に共通する事柄として、
滞納問題に要する弁護士費用の負担について定めたものであるから、
「一部の区分所有者の権利に」特別の影響を及ぼすべきときには該当しない。
【この裁判例から学べること】
管理費等の滞納者に対し、管理組合が対応に要した弁護士費用を違約金として請求できることを
標準管理規約(単棟型)60条5項が定めています。
この規定の有効性については、裁判所のお墨付きです(当ブログでもいずれご紹介します)。
これに対し、管理費等の滞納者からは、まれに、本件の被告のような主張がなされることがあります。
滞納者当人の心情としては、「狙い撃ちで不公平だ」、「規約の不利益な遡及適用だ」ということなのだろうと思います。
しかし、この裁判例の結論のように、裁判所がこのような反論を受け入れることはありません。
私も一度も敗訴した経験がありません。
その理由は、要するに、
【滞納者は今後も生じる可能性はあるのだから、変更後の規約はおよそ滞納者(=理屈上は全組合員)に適用されるものであって、現在の滞納者だけに適用されるものではないから、これによって影響を受けるのは、そもそも「一部の区分所有者の権利」ではない】
というものになります。
また、不利益な遡及適用であるとの主張も通常認められません。
管理組合が弁護士費用の支払義務を負ったのは規約変更の後であって、何ら「遡及」に当たらないからです。
よって、滞納者からこのような反論がなされたとしても臆する必要はありません。
粛々と必要な措置をとってください。