13. 決議の違法・無効は、その後の決議までずっと承継されてしまいますか?
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決議の違法・無効は,その後の決議までずっと承継されてしまいますか?
東京地方裁判所令和2年9月10日(判例集未搭載)
【ざっくりどんな事案?】
現在は2020年です。このたび管理組合が組合員から訴えられてしまったのですが、
その理由は、なんと2007年に行われた総会の決議が無効であるというものです。
この組合員は、2019年になってから、この10年以上前の総会の決議について問題にし始めました。
管理組合が委任した弁護士によれば、2007年の総会の決議では、
特別決議が必要な規約変更を行ったものであったところ、組合員総数と議決権の各4分の3という要件のうち、
組合員総数が本来は27名以上の賛成が必要であるのに、実際の賛成者は23名であったことから、
確かにこの点で問題はあったとのことです。
しかしながら、そうはいっても、10年以上の前の総会の決議を今になって無効だと主張することが許されるのでしょうか?
【裁判所の判断を簡単にいうと?】
規約変更について、たとえ議決権総数の4分の3以上という要件ををクリアしていたとしても、
組合員総数の4分の3以上という要件をクリアしていなかった点は、瑕疵として軽微とはいえない。
よって、問題の総会決議は違法であり、無効である。
そうすると、無効な規約に基づき定められた理事の資格要件等に沿って選任された理事や、
この理事の互選によって選任された理事長も、適法に選任されたとはいえないことになる。
よって、このような理事長には総会の招集権限がないことになるから、
このような理事長が招集した総会は、区分所有法が定める集会とは評価できない。
したがって、問題の総会決議より後に開催された総会もまた、違法であってその効力を
認めることはできない。
しかし、本件に限っていえば、原告である組合員は、問題の総会決議や、その後の
総会の決議に賛成したり、議長宛の委任状を提出するなどしてきた経緯がある。
そうであるにもかかわらず、問題の決議から12年以上も経ってからその違法を主張するのは、
権利の濫用に当たり許されない。
したがって、結論としては、原告による、問題の総会決議の無効確認請求は認められない(請求棄却)。
【この裁判例から学べること】
本件のような紛争は、講学上は「瑕疵の連鎖」などと呼ばれており、会社法などで議論が進んでいます。
マンションにおいても、この点が問題となることがたまにあります。
この問題を考える上での視座そのものは、単純です。要するに、
【違法な総会の決議の効力は否定しなければ、「違法」であるとした意味がない】という観点と、
【そうはいっても、違法とはいえその決議を前提として、何年も総会招集→決議→総会招集→決議→・・・
が積み重なっている場合には、その全部を違法=無効と判断してしまうと、管理組合運営が大混乱となり、
収集がつかなくなるから、どこかで違法=無効の連鎖を止める必要がある】という観点とを、どこで折り合いをつけるかという問題です。
そして、解決に向けたアプローチは概ね以下の2通りです。
①総会決議などの違法性について、「違法ではあるが、違法性は軽微であるから、
決議を無効とするほどではない」として、違法=無効の連鎖を発生させない。
②「違法=無効」という原則は維持しつつ、その後に発生した個別の事情により、
「瑕疵は後から治癒された」とか、「今ごろになってから違法=無効を主張することは権利濫用であって許されない」
などの理屈でもって、違法=無効の連鎖を事実上止める。
本件の裁判所は、このうちの②のアプローチを採用したことになります。
本件では、規約変更の特別決議の議決要件自体が不足していたという重大ミスがあった
わけですから、確かに上記①のアプローチは採用できなかったでしょう。
長くなりましたが、実務上は、【まず、上記①のアプローチで対応できないか?】、
【無理そうであれば、上記②のアプローチで対応するために、今から何をすべきか?】
という順序で検討することになるでしょう。
どちらも、管理組合側から相談を受けた弁護士としては腕の見せ所ということになります。