5.規約に明記すれば、専有部分を共用部分に変えることができる?
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規約に明記すれば、専有部分を共用部分に変えることができる?
【東京地裁平成18年3月9日判決(判例集未搭載)】
【ざっくりどんな事案?】
私たちのマンションは、一般的なマンションとは少し変わった造りになっていて、
「バルコニーやアルミサッシュが共用部分であるのか、それとも専有部分に属するのか」について、
意見が割れていました。
そのため、この問題にケリをつけるべく、規約を変更し、バルコニーやアルミサッシュが
共用部分であることを明記しました。
すると、これに反対する区分所有者(原告)が、
「これらは専有部分に属する。これらが専有部分であることの確認」
を求めて訴えてきたのです。
【裁判所の判断を簡単にいうと?】
・バルコニーについて、以下の理由から専有部分であると判断した。
・分譲時の契約書などにおいて、バルコニーが専有部分であることが前提とされていたこと
・バルコニーは避難経路になっていないこと
・バルコニーは外部から視認できず外観の統一性確保などの要請もないこと
・アルミサッシュについて専有部分であると判断した上で、このような建物の附属物を
規約によって共用部分とすることは、区分所有法上そもそも不可能であると解釈した。
【この裁判例から学べること】
マンションを構成する物理的な部分や設備がが、専有部分であるのか、それとも(専用使用権はあるとしても)
共用部分であるのかという問題は、古くからあるマンション判例の一分野です。
これが争われる理由は、当該部分のメンテナンス費用や当該部分が原因で発生した損害賠償責任を誰が負うべきか、
という点を判断するための前提問題となることが多いためです。
さて、公刊されている判決文には、通常は写真などが添付されないため、このマンションの具体的な構造等を
知ることができないのですが、かなり特殊な造りのようです。
そのため、バルコニーやアルミサッシュを専有部分と判断したという結論そのものには、
先例的価値はないと考えています。
その上で、参考になる点は、まず、バルコニーについては、これが専有部分であると判断した理由(考慮要素)です。
私見では、避難通路になっていないという点が大きかったのではないかと考えています。
次に、アルミサッシュの判示は一般論としても重要です。
区分所有法において、規約という事後的な多数決によって、その帰属を専有部分から共用部分へと
変更することが認められているのは、「建物の部分」(例:専有部分だった部屋)と「附属の建物」(例:専有部分だった部屋に
附属していた物置)のみです(区分所有法4条2項)。
アルミサッシュや、よく問題となる給排水管(給排水管に関する裁判例も後日アップします。)などは
「建物の付属物」(区分所有法2条4項)なので、これらに該当しません。
これは条文上明らかであるのみならず、区分所有法が昭和37年に制定された当時からの
法務省の一貫した見解です。
そのため、規約によってエイヤッと共用部分化するのではなく、メンテナンス費用の負担や
賠償責任を誰が負うのかという各論を規約に明記することで、一つ一つ丁寧に対応する必要があります。