34. コラム・総会当日の修正動議は無視しても大丈夫?

コラム総会当日の修正動議は無視しても大丈夫?


今回はコラムです。お題は「修正動議」です。
ついにこの話題に触れるときがきたか・・とヒヤヒヤしながら筆を進めています。

動議は、マンション管理の日々の中で出会う法的問題の中でも、非常に難易度が高い問題になります。
もっとも、そのわりには、訴訟となり判決まで至るケースは多くはない印象です。
動議が争点となった裁判例をご紹介する形でもよいのですが、
ご紹介の前提として、動議一般について前提となるべき知識をたくさん書き添えなければなりません。

そうであれば、まずはコラムという形で、動議一般について最低限知っておいていただきたい事柄を
整理して記載した方が便利だと考えた次第です。

なお、動議のうちの「手続的動議(例:議長解任動議)」についての説明は、ボリューム等の都合上、他日を期したいと思います。

なにかしら具体例を設定して論を進めた方がわかりやすいでしょう。
ここでは、動議が最も活発に提出される類型である、役員選任議案を例にとりたいと思います。
とはいえ、基本的な考え方は、役員選任議案以外に関する動議でも同じです。

なお、この役員選任議案に関する動議については、規約上の理事の定足数など、他にも確認しておくべき事項が複数あります。
しかし、このコラムでは、動議に関する最低限の知識をご紹介するという観点から、
このあたりの細かい話は捨象することにします。ご注意ください。


また、標準管理規約単棟型と同じ内容の規約が整備されていることを前提とします。


【具体例】

・A管理組合では、例年どおり、理事会が、輪番表に基づき、次期役員として10名を選出した。

・このうち9名を理事の候補者として(残る1名は監事)、その氏名と部屋番号を記載し、
【第10号議案 次期役員選出の件】として通常総会に上程した。

・総会当日、候補者として議案書に掲載されていないB氏が次期役員に立候補した。

・A管理組合の議決権総数は100個。当日の出席状況(議決権数)は以下のとおり。
   
     ・リアル出席者:20個
     ・議長(=理事長)宛委任状:20個
     ・議決権行使書:20個


【その1:そもそも修正動議なんて認められるの?】

答えはYESです。少なくとも普通決議が対象である議案については、
修正動議の提出は99.9%許されると考えてください。
修正動議を提出できる旨の規約などの定めは必要ありません。
およそ会議体であれば当然だ、などと説明されます。

いくらこの点に納得がいかなくとも、総会における修正動議の提出が
許されないという事態は考え難いです。これはもう所与の前提としていただくほかありません。
「会社法には、動議に関する304条があるけど、区分所有法には無いじゃないか」
と主張しても、まず通りません。


【その2:決議事項事前通知ルールとは?】

区分所有法37条は、「決議事項の制限」という見出しのもとで、
「集会においては、・・あらかじめ通知した事項についてのみ、決議をすることができる。」
(1項)と定めています。これを、弁護士の渡辺晋先生は「決議事項事前通知ルール」と呼んでいます。
私もこの呼称を使わせていただいています。
読んで字の如くのルールです。組合員は、総会にリアル出席するだけではなく、
代理人や議決権行使書によって、その議決権を行使する権利が保障されていますので
(区分所有法39条2項)、決議事項が事前に通知され、かつ、その範囲内でのみ決議がなされることが必要です。

もっとも、ここでいう「事項」とは、いわゆる「議題」を指すのであって、「議案」を指すのではないと解されています。
「議題」とは、「次期役員選出の件」という決議の大枠のことです。
これに対し、「議案」とは、理事候補者である9名の氏名や号室などの「議題」の具体的内容のことです。
よって、B氏による立候補の動議は、あくまで「次期役員選出の件」という議題=大枠の範囲内に収まっていますので、
決議事項事前通知ルールには反しないという結論となります。

【その3:B氏による立候補の動議は無視できる?】

したがって、議長にいくら議事進行に関する裁量が認められているといっても、
B氏による役員立候補の動議を無視することは許されません。
かならず採決の対象とすることが求められます。

仮に、採決の対象にしなかった場合、B氏から決議無効の訴えを提起されると、少なくとも決議に違法があったという評価は
免れないでしょう(その上で、決議が無効とまで評価されるかどうかは、また別の問題がありますのでここでは言及できません。)。



【その4:B氏による立候補の動議はどうやって賛否をカウントする?】

現在の実務上、最も悩ましいのは、このカウント方法であろうと思います。
問題は議決権行使書の取扱いです。

私は、最も「安全」である下記の方法を推奨することが多いです。
B氏による立候補の動議については、リアル出席者プラス委任状のみで、
出席議決権総数60個の過半数である31個以上の賛成が得られない限り、否決されることになります。

① リアル出席者については、動議の内容について賛否を問えば足りる。

② 委任状についても、受任者(議長など)が動議の内容について賛否を投じれば足りる。
  後で、受任者が、委任者(本人)から、「あんな動議には賛成or反対したかったのに!」と
  言われたとしても、それは委任者と受任者の問題であって、受任者が投じた賛否の票には影響しない。

③ 議決権行使書については、行使者の真意を諮ることが困難であるため、賛成票には投じない(棄権or反対)。