18. 役員を守るために管理組合のお金をどこまで出してあげられる?
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役員を守るために管理組合のお金をどこまで出してあげられる?
東京高等裁判所平成24年5月31日判決(判例集未搭載)
【ざっくりどんな事案?】
先日、私は理事長を解任されてしまったのですが、解任事由として理事会から組合員へ示された内容には全く納得できません。
特に、私が議事録を何度も改ざんしたなどという点は事実無根であるのみならず、私の名誉を毀損する違法なものです。
そのため、私は、当時の理事らを被告として損害賠償請求訴訟を提起したところ、名誉毀損の主張が認められ、理事らに対し、
連帯して私に慰謝料30万円を支払うよう裁判所が命じてくれました。
ところが、このたび、管理組合の総会に、この訴訟で理事らが委任した弁護士の費用(応訴費用)や、慰謝料30万円についてまで、
管理組合が管理費から支出して負担してあげようという議案が上程され、可決されてしまいました。
こんなお金の使い方は許されないはずです。
【裁判所の判断を簡単にいうと?】
1 理事らの弁護士費用(応訴費用)について
理事らは、いずれも管理組合の理事としての業務遂行に関して訴えられたものであるから、
その応訴費用を管理組合が負担するか否かは、管理組合の自治に委ねられている。
→支出を認めた総会の決議は有効
2 理事らの慰謝料支払義務について
マンションの管理組合の決議としては異例のものに属するが、少なくとも本件の事実関係のもとにおいては、
理事らの業務と密接に関連する事実関係に基づき生じた債務ということができるから、やはり管理組合の自治に委ねられているというべき。
【この裁判例から学べること】
上記1の理事ら個人の弁護士費用(応訴費用)の支出については、実務上も広く管理組合の負担とすることが行われていると思います。
多くの管理組合においては、理事(長)は輪番であって、被告とされたこと自体に同情すべき点が大きいことからすれば、
やむを得ない措置であるといえるでしょう。
よって、明示的な総会の決議が存在するのであれば、支出が違法と判断される可能性は非常に低いと考えられます。
他方、上記2は、判決文においても「異例のものに属する」と表現されており、まさに限界事例ということができます。
全く同じ事案であっても、別の裁判所(裁判官)の判断であれば結論が変わる可能性はあると言わざるを得ません。
とはいえ、裁判所が広く管理組合の団体自治・私的自治を認める傾向がこの裁判例からも伺うことができます。
実際に、このような限界事例に関する対応を検討する場合には、事実関係の把握や組合員に対する説明
(それが結実するのが議案書の記載です)を慎重かつ丁寧に行い、敗訴リスクを少しでも減らすことが肝要です。